たかだか二、三日で「くりすます」とやらのすべての準備を整えろと通達を受け、年の瀬の忍術学園はあたかも戦場のごとき様相を呈した。
誰に見せるわけでない飾りや食事を、なぜこうも気合いを入れて準備しなくてはならないのか。誰しもが思ったその疑問は、しかし誰もが口に出せなかった。聞きたくとも聞かないほうがいいような気がする時は、潔く聞かずにいるのが学園におけるお約束というものである。
忍者のたまご達は空気を読んだ。
「それにしても監修はか…聞いたぞ、ずっと前に言ったことを学園長がほじくり返してきたそうじゃないか」
「そうなんだよね…この忙しい時期に面倒ったら。あ、このぐらいのサイズならちょうど良さそう」
六年生達を連れて裏裏山の中腹あたりまで登り、飾り映えがしそうで手頃な大きさの木を探し出して来る。
提案されたときは立ち眩みがしたが、さすがに彼らは最上級生。は連れるというよりもむしろ彼らの後ろを連れられていって、次から次に見付かる候補の中からこれと決めたものを選ぶだけで事が足りた。
(考えてみれば私一人で木を探したり伐ったり、まして持って帰ったりできるはずないし…それ以前に登るだけで時間を使い果たしそう)
いけいけどんどーん! といつもの如く威勢良く大声を張り上げながら、を背負って凄まじいスピードで走っていた七松小平太は信じられないことに息も切らしていない。いや、それどころか備品の斧を振り回してやる気満々といった様子でさえある。
「よせ小平太、危ない」
「ねえねえ、これに飾りをつけるんだって? どんな!?」
「斧を下ろしてから聞きなさい、怖いからそれ。
雪に見立てた綿とか色とりどりの紙で作った星とか、あと鮮やかな色の端切れをリボン代わりに枝に結んだり。それならボリューム出るし綺麗でしょう。今一年達に作ってもらってるよ」
「綿を飾るのか! きれいだなそれ!」
目を輝かせる小平太とは逆に、憮然とする者もいる。
「ふん、馬鹿馬鹿しい。南蛮の神の誕生日をなぜ俺達が祝ってやる筋合いがある」
「私のいた時代じゃ本当の意味は廃れ気味で、むしろ好いた相手や親しい人と楽しく飲み食いして贈り物を渡し合う風習だからね。学園長はそんな楽しい集いをやりたいんだと思うよ、タイミング最悪だけど。
…ところで文次郎君はいないの? 好いた相手」
「いるかそんなもん! お前は忍術学園で働いていながら忍の三禁も知らんのか、バカタレィ!」
「知ってるけどさ、それは避けろって意味じゃなくって、もしもの時に慌てないよう今のうちに重々体制をつけておきなさいねって意味だと思ってた」
「はっはっはその通りだ! よく言った!」
常に冷静な立花仙蔵が珍しく大笑するのとは裏腹に、文次郎はますます眉間の皺を濃くした。
「私の故郷じゃよく、そういうやつが遅くに色に嵌まると傷が深くなって厄介だって言うよ」
「それは俺に喧嘩を売ってるのかこら…! 上と「おーいみんなー! 切った木はここの斜面からがーっと滑らせちゃえばどうかな! すぐ学園に着くし楽だと思うんだー私って頭いい!」
『やめろ大バカ!』
「なに考えてんの! 小平太君マジでなに考えてんの!」
「木がズタボロになるだろうがこのバカタレ!」
「それ以前の問題だ。こんなところから落としたら方角上まず間違いなく保健室に突っ込む。お前は伊作に恨みでもあるのか」
「あ、もう巻き込まれることが前提なのね…」
「それどころか下手すれば保険委員が全滅するぞ」
「そっかあ、いけないいけない! てへ☆」
「てへじゃない!」
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